Haworthi-Ya

草と分類

Cymbidium erythraeum

また原種シンビジウム(Cymbidium)の話題。

最近よくみかけるようになった和蘭だが、その交配に必ずと言っていいほど使われているのがCymbidium erythraeum。'利休'などは原種そのままで和蘭として扱われたりもするようだ。もしかしたら'利休'はキンリョウヘンの次くらいに普及している原種シンビかもしれない。

今回紹介するのはこのCym. erythraeum。ただし、よく出回っている'利休'(おそらく雲南周辺産)ではなく、インド産とされる個体。

 

インド産Cymbidium erythraeumの花1

Cymbidium erythraeum India. 前から見た花の様子。'利休'とは全く雰囲気が異なり、シャープな雰囲気。(2020. XI. 17.)

 

インド産Cymbidium erythraeumの花2

Cymbidium erythraeum India. 横から見た様子。唇弁の両脇が突出しているのが分かる。(2020. XI. 17.)

 

Cymbidium erythraeum 'rikyu'の花
Cymbidium erythraeum 'Rikyū'. 比較用の'利休'。おそらく雲南周辺の個体で、インドのものより花が小型で唇弁脇の突出がない。

 

Cym. erythraeumは中国南部~ヒマラヤ周辺に分布しているが、インドやネパール産のものと、中国産のもので花の特徴が異なる。最も顕著な特徴は唇弁両脇の突出の有無で、インドのものは突出があるが、中国のものは突出が無い。他にも、中国のもののほうが花が一回り小さい(花被片が短い?)ことも特徴である可能性がある。全体的には、インドのもののほうが株がイカツく、花はよりくねくねした雰囲気(?)があるように思える。インドのものと雲南のもので交配に使ったときの違いがありそうだが、調べられているのだろうか。

 

別種か亜種としていいんじゃないかと思うような違いだが、今のところ学名の上では区別されていない。非連続的な違いだったら面白いが、あまり調べられていないのだろか。それともCym. tracyanumが浸透交雑しているとか・・・?

 

Cym. erythraeumのタイプ産地はインドのシッキム。雲南産の個体をもとに記載された名前は、アルバをもとに記載されたCym. flavumしかないので、別種にするなら雲南タイプはノーマル個体であってもCym. flavumになるのか?

ちなみにそれぞれの原記載は

Cymbidium erythraeum Lindl., J. Proc. Linn. Soc., Bot. 3: 30 (1858).

Cymbidium flavum Z.J.Liu & J.Yong Zhang, Orchidee (Hamburg) 53: 94 (2002).

 びみょーな変異で学名つける人がいるわりには雲南産のノーマルに名前が与えられたことがないのが驚き。

Cymbidium nanulum

4大洋蘭の一つとして数えられるシンビジウム(Cymbidium)。鮮やかに改良された贈答用の品種が昔から多く出回る一方、最近は「和蘭」という商品名で東洋蘭の血を入れた落ち着いた品種も流通するようになってきた。

個人的には原種のシンビの良さがもっとしられてもいいと思うが、やはり原種シンビは株のサイズが大きいことが欠点だろう。

シンビの原種は東南アジアを中心に70種ほどが存在している。特に洋蘭の交配に使われるような原種は大型のものが多いが、特に東洋蘭とされるものの周辺には小型の種類がいくつか存在する。

このような種類はあまり流通せず、交配にもほとんど用いられない。しかし、なかなか面白い性質をもっており、交配に使われるようになれば交配シンビのバリエーションが広がるのは間違いないだろう。

今回紹介するのは、中国雲南省周辺からインドにかけて分布する、小型の原種Cymbidium nanulum (中国語名 珍珠矮)である。中国ではよく栽培されているらしいが、栽培が難しく、日本への導入は数回しかなされていないようだ。高さ15cmほどで開花するため、この性質が洋蘭に導入できれば、小型の交配種が作れるかもしれない。

日本での開花例は個人のブログで紹介されていたものと、「自然と野生ラン」の広告に開花株の写真が掲載されているものしかみたことがない。今回、家の栽培棚で2株開花させることに成功したので、紹介する。

 

Cymbidium_nanulumの花

Cymbidium nanulum. 建蘭(Cym. ensifolium)や小蘭(Cym. koran)を小型にしたような花。香りもよく似ている。高さは15cmほど。(2020. VI. 10.)

 

Cymbidium nanulum. 先ほどとは別の個体。この個体は花が小さいが、作によって変わりそうなので、なんとも言えない。(2020. VII. 28.)

 

栽培は東洋蘭に準ずるが、ややクセがあり、気を使った方がいい。また、バルブが無く地下茎のみのため、普通のシンビより弱い可能性があるが、不明。

過去にはCymbidium ensifolium(スルガラン)の小型の変異個体とみなされ、シノニム扱いされることもあったが、写真をみればわかるように、明らかにスルガランとは異なる。株サイズ以外にも、葉の形や鋸歯の粗さが花の構造などが異なる。

原記載は、

Cymbidium nanulum Y.S.Wu & S.C.Chen, Acta Phytotax. Sin. 29: 551 (1991).
タイプ産地は中国の雲南省 六庫。雨季と乾季に分かれ、冬の気温はあまり下がらないようだ。また、近年インドからも発見されており、ミャンマーなどにも分布している可能性がある。

 

 

 

サギソウ

白鷺のような花を咲かせることで有名なサギソウ(Pecteilis radiata)。早咲きの系統が咲いたので、紹介する。最近よくいろいろな産地の花が流通しているが、北の系統ほど開花の時期が早いようだ。

 

サギソウの花

サギソウ(Pecteilis radiata 福島県産)の花。優雅で涼しげな花。(2020. VII. 24.)

 

栽培は難しくはないが、簡単というほどでもない。花芽にアザミウマがついて花茎が枯れることがあるので注意が必要。鉢の温度が上がるのもあまりよろしくない気がする。水切れは論外。

 

学名はやや混乱があり、サギソウ属(Peteilis)とする説と、ミズトンボ属(Habenaria)とする説がある。この仲間の学名はいろいろと面倒だが、花の構造を重視すれば、

 Pecteilis radiata (Thunb.) Raf., Fl. Tellur. 2: 38 (1837).

ただ、サギソウ属やミズトンボ属などは、遺伝的に単系統ではないことから、一括してミズトンボ属とみなすこともできる。その場合は、

Habenaria radiata (Thunb.) Spreng., Syst. Veg. 3: 693 (1826).

とすればいい気がする。ちなみにサギソウとミズトンボは交雑する。遺伝子をみればすべて解決、というわけにはいかないのが分類の面倒なところ。でもそれがいい。

 

 

 

Jatropha nudicaulis

エクアドル固有のヤトロファトウダイグサ科)の一種。GBIFなんかのデータを見ると、エクアドル以外にペルーでも少数ながら記録があるようだ。

現地では乾燥した灌木林に生え、そこそこ大きな木になるらしい。

エクアドル固有の響きにつられて南米の業者から購入。日本での流通はほぼなさそう。ネットで調べても栽培品の写真はほとんど出てこない。成長は速いし、花も鮮やかで毎年咲くので、興味がある人はぜひ育ててみて欲しい。

 

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Jatropha nudicaulis. 雌雄異花で、雄花と雌花が同じ花茎に付くが、同時に開花することは無いようだ。写真は雌花。(2020. VII. 1.)

 

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Jatropha nudicaulis. 雌雄異花で、写真は雄花。花は数日しかもたない。花茎の分岐パターンが独特で面白い。(2020. VII. 4.)

 

栽培は簡単で、夏場の高温期によく成長する。また、冬場も水を切っておけば少なくとも5℃くらいには耐えられる。雌雄異花のため、自家受粉ができるかは不明。挿し木で増やせそうだが、失敗したためよくわからない。

 

 

玉花蘭 明玉宝

最近はハオルチアばかりだったので、今日はランの紹介。

細葉系の恵蘭(ほんとは蕙蘭)の一群に玉花蘭というものがある。細葉恵蘭は分類が細かく、それぞれの名称がどのようなグループにあてられているのかよく理解していない。玉花蘭(ギョッカラン)はどうも細葉恵蘭のうち、中型で、葉に光沢のあるもののようだ。

玉花蘭の登録品種は、10種ちょっとあるようだが、ほとんどのものは'北中'という品種から斑の変化したものらしい。

まず、無地の品種'北中'から中斑縞の'明玉'が出現、そこから中透縞に変化したものが今回紹介する '明玉宝'らしい。

 

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玉花蘭 '明玉宝' Cymbidium ensifolium 'Mingyokuho (?)'  斑入りのランは新芽の季節が一番美しいと思う。明るめの棚に出したら葉焼けしてしまった。

 

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玉花蘭 '明玉宝' Cymbidium ensifolium 'Mingyokuho (?)'  見事な白中透縞。よく見ると先端は青く、紺帽子と呼ばれる状態になっている。

 

いわゆる細葉恵蘭と呼ばれるものは、学名の上では1種、Cymbidium ensifoliumの変異の範疇として扱われている。この処理には疑問があり、たしかにみんなよく似ているのだが、建蘭(雄蘭)なんかは明らかに草姿が違うし、ほかにも葉の鋸歯の感じが違うものもいる。ということで、複数の種を含んだSpecies Complexとして扱うのがいいだろうと思う。もちろんどの種にどの名前が当てられるかはよくわからず、今後の研究が期待される。過去には、品種群ごとに違う学名がつけられていたこともあるが、これは明らかに分けすぎだろう。近年は遺伝子を調べられるようになったので、いずれ解明されるかな、と思う。最近は中国のグループが蘭の分類をやっており、彼らなら細葉恵蘭の産地間の形態比較なんかもできるはずなので、期待している。

 

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玉花蘭 '明玉宝' Cymbidium ensifolium 'Mingyokuho (?)'  新芽が2本でたが、1本は中透になりそうな雰囲気がある。この場合'明玉'の中透である'有明'と区別がつかなくなる?

 

 

Haworthia groenewaldii

 これも一時期すごい値段になってた原種ハオ。出回っているのはどうも組織培養由来のものが多いらしい。

変わった見た目のハオルチアだが、発見されたのは最近、それもよく人が入る地域らしい。ハオルチアは各パッチが小さいからこういう特異な集団はどんどん発見されていくだろう。長い学名だが、発見者の名前に由来するようだ。

産地は2地点で、そのうち1地点は白点の多い集団、もう1地点は白点がほとんどない集団らしい。白点がない方はちょっと変なピグマエアみたいな雰囲気で、あまり特異な感じはしない。

 

Haworthia_groenewaldii株

Haworthia groenewaldii MBB7801 Mullersrus, South of Buffeljagsrivier (Type locality). 丸い葉先と白い水玉模様が特徴。点がもっと少ないやつもいる。 (2020. VI. 28.)

 

栽培はとくに難しくはないく、生育スピードは遅いが、普通に育つ。とくに夏は少し暗めの環境のほうがいいかもしれない。明るくするとピンク色が強くでて綺麗。

 

Haworthia_groenewaldii葉の拡大

Haworthia groenewaldii MBB7801 Mullersrus, South of Buffeljagsrivier (Type locality). よく見ると水玉模様のほかに白線もでている。個体によっては白線がもっと目立つようだ。 (2020. VI. 28.)

この個体以外のクローンはあれば欲しいのだが、オークションに出ても結構いい値段になってしまう。ハオ協のブログにあるような白線ハッキリタイプが欲しい。

 

H. groenwaldiiはやはりkewのリストではAcceptされておらず、

Haworthia mutica Haw., Saxifrag. Enum. 2: 55 (1821).

のシノニムとなっている。確かに白点の薄い個体はmuticaっぽさはあるが、さすがに同種ではないだろう。ということで、私は

Haworthia groenewaldii Breuer, Alsterworthia Int. 11(2): 15 (2011).

の学名を推したい。

 

 

Haworthia bobii

最近はレツーサ型原種にもはまっているのでそればっか紹介。

レツーサ型の種にしては珍しく葉に毛の生えるHaworthia bobii。 産地は一地点のみらしいが、複数パッチある模様。

一時期すごい値段になっていたが、安定してきた様子。組織培養でもしたのかも。組織培養に関しては賛否が分かれるが、個人的には賛成。ただし、苗の出どころは適切である必要があるし、(交配種の場合は)改良した人にもちゃんと利益が還元される必要があると思う。

 

Haworthia_bobii株

 Haworthia bobii WMS020 Ballyfar. 紫がかった葉がかっこいい。毛がはえて見えにくいが、よく見ると窓の透明度は結構高い。 (2020. VI. 28.)

 

去年の2月末に苗を購入したが、最近大きな葉が出てきてだいぶかっこよくなってきた。株のサイズとしてはこんなもんかもしれないが、葉の数はもう少し多くなるっぽい。暑がるという記述をどこかで見た気がするが、去年の夏は普通に越した。まあ、気を付けておいて損はないだろう。

 

Haworhita bobiiはkewのリストだとAcceptedではなく、

Haworthia mirabilis (Haw.) Haw., Syn. Pl. Succ.: 95 (1812).

がAcceptになっている。正直これは無理があるだろう。とりあえずH. mirabilisに毛は生えていない。個人的に、Haworthiaの「種」はおそらく最近分かれたもので、明確に線引きするのも難しいと思うので、

Haworthia badia var. bobii (M.Hayashi) Breuer, Alsterworthia Int. 16(2): 5 (2016).

を推しておく。これのもとになったのは、 

Haworthia bobii M.Hayashi, Haworthia Study 29: 4 (2014).

で、はじめは独立種として記載されたようだ。